歯科から全身へアプローチする挑戦者でありたい
インタビュアー:
まず麻生田理事長が歯科医師になった動機を教えてください。
麻生田
先祖代々医者か歯医者でした。その中で後継ぎとして育てられましたので、それ以外の選択肢を考えたことがありませんでした。幼稚園の卒園アルバムに外科医になりたいと書いていました。ある意味洗脳ですよね(笑)
インタビュアー:
新宿区で120坪の診療所はかなり広いと思うのですが、この規模で診療所を開設したビジョンは?
麻生田
歯科診療所だけでやろうと思ったらこんなに広くは出来ませんでした。山田晶先生(現副院長、歯科医師・指圧マッサージ師)と再会して、当時お互いに歯科医師としての将来に悩んでいることもあり、「それなら一緒にやったらすごくいいものが出来るよね。」と話をした記憶があります。その時はまだ先の話、将来的な話のつもりでしたが、山田晶先生の父、山田昇太郎先生(院長、内科・整形外科)から「力を貸しましょうか」と言われたものですから、急展開、飯田橋内科歯科の開業の話がまとまった次第です。
インタビュアー:
それから開業してどれ位経ちましたか?
麻生田
もう19年になります。
インタビュアー:
その当時のコンセプトとして、骨盤とかみ合わせを主体とした歯科医院というのは珍しかったのではないでしょうか?
麻生田
今でこそ、全身的なアプローチを掲げている歯科もありますが、当時はまずなかったですね。
患者さんが気付かせてくれた“かみ合わせと骨盤”の関係
インタビュアー:
約20年前、人間でしたら成人を迎える時期です。19年前当時、私が覚えているのは、『骨盤とかみ合わせのセミナー』を開催したら満席で入りきれなくなり、このビルにあった貿易会社の研修会場まで借りたことです。
麻生田
そうでしたね。当時は歯科から全身へのアプローチが先進的で、マスコミに注目され、TVや雑誌の取材をよく受けました。セミナーをやって歯科医師がよく集まったのは、斬新というだけでなく、当時の歯科医師もどこか歯科分野の閉塞感を感じて何かをやらなければと思っていたのでしょうね。
セミナーに来ても、歯科医師が骨盤を解剖学見地から理解できない部分があると思います。あるいはリテラシーにはなっても、臨床に活かすのは難しかったと思います。
歯科医はそんな状況でしたが、反対に来院される患者さんは、顎(かみ合わせ)と骨盤が関係していると考えている方が多くいらっしゃいました。自らの体に起こっていることですから、体感的に患者さんはわかっていたのでしょう。「各部位が繋がって全身になるわけですから、バラバラで診て良いわけないですよね」と言われる方が多かったです。専門の私たち医療人よりも素人の患者さんの感覚的な思いの方がある意味進んでいましたね。そんな思いを持った患者さんにとって、十分に満足して選ぶべき医院がなかったところに、TVや雑誌で当院が紹介されたものですから、多くの方が来院してくださいました。
インタビュアー:
麻生田先生がかみ合わせに注目するに至るには、どのようなプロセスを辿ってきたのでしょうか?
麻生田
そうですね。患者さんの中には体調が悪くて医者に行っても「健康ですよ」と言われ、帰されてしまうといった方がいらっしゃいます。しかしそれでも調子が悪いという方のお話をいろいろと聞きます。すると過去に歯列矯正を行ったなど、かみ合わせが崩れてしまい、全身のバランスも崩れてしまっているというケースが多いことに気がつきました。
歯科だけでなく、医科・整体の分野から診て、咬合と全身のバランス改善をしなければならないと思いました。しかしコンプライアンス面で歯科と他科の統合は難しいため試行錯誤していました。
山田晶先生(副院長、歯科医師・指圧マッサージ師)は歯科から離れて骨盤を専門に診ていました。骨盤だけを診ても解決できない問題もあり、彼と再会したことで今の診療のスタイルがつくられました。
インタビュアー:
山田先生は骨盤だけを診ても解決しないと考えたのは、歯科医の視点からでしょうか。
麻生田
歯科医師の視点も当然ありますが、山田先生の場合は腰を痛め、自分が患者の立場になってしまったんですね。明日手術という状況で、ある整体の先生の新聞の記事を見て、そこに飛び込みました。山田先生は寝たきり状態だったのですが、その日のうちに歩いて帰れたそうなのです。
山田先生はそういった実体験を経て、今まで自分のやってきた西洋医学に疑問を持ち歯科臨床を中断して自分の腰痛を治してくれた整体師の先生の門下生になり、骨盤療法を究めていきました。そのような山田先生の歯科医師でありながら自分自身が重度の腰痛患者であった頃の体験を、かみ合わせの臨床に生かしているのではないでしょうか。
カウンセリングの基本は傾聴とていねいな説明
インタビュアー:
かみ合わせからくる全身の不調を訴える患者さんが一定数存在することはわかっていたかと思いますが、このような大規模の医院を展開することに不安はありませんでしたか?
麻生田
かみ合わせは歯科の総合診断で包括的な治療です。かみ合わせを改善するには、歯科のあらゆる部門が参画する必要がありますから、大規模になるのは必然だったように思います。また飯田橋内科歯科を開設する以前の体験から、臨床歯科医はもっとコミュニケーションを活発にすれば、患者さんの理解を得られると体験的に感じていました。患者さんと話をすると、以前通っていた歯医者で「歯を抜かれた、歯を削られた」といったネガティブな表現が多かったのです。しかし実際に口の中を見ると良い治療が行われていました。何故否定的な表現になるのかな?と考えると、十分な説明時間をとらないこと、患者さんの目線で治療説明をしていないこと、つまりコミュニケーション不足なのです。
普通歯科医師は、患者さんとチェアサイドで簡単な日常会話の延長線上で治療の話をするのですが、私の場合はカウンセリングといった形をとります。
患者さんはユニットに座ると“まな板の鯉”状態になってしまうので、聞きたいことも聞き出せない、言いたいことも言い出せない状態で治療が進んでいってしまいます。それでは良くないと考え、治療用ユニットに座る前に別室の机を挟んで患者さんと同じ目線で話をするようにしました。すると「実は腰が痛くて…」等と、患者さんは歯科以外の話もしてくれるのです。そんな会話の中から腰痛に悩んでいる患者さんが多いことに気付きました。歯科医療的に“できることできないこと”を考えると、歯科からのアプローチは無尽蔵にあるように思えてなりませんでした。普通に患者さんとチェアサイドでの話でしたら、こういった潜在的なニーズを引き出すことはできなかったと思います。そんな時期に山田先生と再会したのです。運命的な再会ですね。
インタビュアー:
飯田橋内科歯科のカウンセリングシステムとかみ合わせ治療のベースは、今から遡ること20年以上前の同時期に築かれていたことになりますね。
麻生田
そういうことになりますね。飯田橋内科歯科では20年余りのキャリアを生かし、“木を見て森を見ず”の歯科から脱却して、全身から歯科を見ていきたいと思います。また、常に患者さんの立場に立った医療を心がけていきたいと考えています。
総合歯科病院で皆様の元気をサポートしていきます
新宿区にあり、JR・地下鉄の駅から徒歩3分あまりに位置し、医院面積120坪、歯科医師を中心にした約30人の医療従事者を有する当歯科医院は、かみ合わせ治療に成果を上げてきました。今後は歯科医院から、アスリート咬合外来を開設して総合歯科病院への展開を期待されています。
かみ合わせと骨盤療法による全身のバランス改善
インタビュアー:
一般的に顎関節症になると、食事や会話など日常生活の中で関節痛や関節雑音が生じ、さらに病状が悪化すると耳の痛み、難聴、めまい、眼精疲労頭痛、首や肩のこり、腰痛などのさまざまな症状を呈するとも言われています。よく歯科が単独で、顎関節症の高い治療実績を掲げたり、完治可能としたりしているケースを散見します。しかし正直なところ、歯科単独で全身の不定愁訴まで広がっている症状にアプローチして大丈夫なのかと感じています。顎関節症の治療方法は現在のところ確立されていないといわれていますが、飯田橋内科歯科では、骨盤治療との連携から顎関節治療にアプローチし、実績を上げています。まず歯科の総合診断をなさる麻生田先生にお聞きしたいのですが、歯科医院に来院する患者さんのどのくらいの方が顎関節症の疑いがありますか。
麻生田
顎関節症の疑いがある患者さんは全体の約1割くらいですが、重篤顎関節症の患者さんは、骨盤のバランス自体が潜在的に良くないと思われる方も少なくないですね。
咬合治療は咬合専門医の大森先生が診るということですが、大森先生の診療範囲に留まる患者さんとベルビックセラピー(骨盤療法)を受診される患者さんの割合はどのくらいでしょうか?
大森
麻生田先生のお話にあったように潜在的に骨盤のバランスが悪い患者さんが多いこともあって、必ずベルビックセラピー(骨盤療法)も受診するようにすすめていますので、ほとんどの方が当てはまります。
インタビュアー:
顎関節治療とベルビックセラピー(骨盤療法)は平行して行うものなのでしょうか?どちらかを先行して治療することはないのでしょうか。
大森
それはケースにもよりますが平行して行うこともあります。難しい問題なのですが(笑)かみ合わせのみの狂いはまだ軽度なんです。筋肉で繋がっているため、かみ合わせの次は頭がい骨が狂い、その次は頚椎(けいつい)と順番に狂ってしまいます。そのバランスをとるために骨盤がずれてしまうと私は思っております。かみ合わせから骨盤に悪影響はありますが、逆に骨盤からかみ合わせというケースがあるのかどうかは分かりません。実際、症例で治しているだけなので、どちらが先に悪くなっているのかは分からないですね。
インタビュアー:
最終的に骨盤が身体全体のバランスをとるということなのでしょうか?
大森
上から下へ、つまりかみ合わせがずれるとそのバランスをとるために、骨盤がずれると思っています。
山田
その通りだと思います。人間の発育は、頭がい骨、顔面と先にできあがり、骨盤が出来上がるのは16才~18才ですから、先に出来上がった箇所の不安定さやねじれを受けてしまうのが骨盤なのです。
インタビュアー:
人間の発育から考える山田先生の治療へのアプローチは理にかなっていると思います。
山田
インタビュアー:
歯科は基本的に顎の画像診断で、患者さんに目で見ていただき説明して、治療結果も理解していただいています。飯田橋内科歯科では、顎の画像診断だけではなく骨盤の画像診断から、再現性の高い治療結果を出しています。「飯田橋内科歯科さんってなんですか?歯科ですか?内科ですか?」とよく言われます。もちろん歯科です。飯田橋内科歯科の内科は採血をして、内臓の疾患を診るところではなく、身体のゆがみを診ることを意味しています。
パズルを組立てるようにかみ合わせを治していく
インタビュアー:
歯科医院での補綴処置によっても顎関節症が発生して身体にゆがみが出ることもあるといわれています。言わば医源性の要素もある顎関節症ですが、歯科の補綴の再治療によって咬合の再生を図る医院がほとんどで、何か無理があるようにも思えます。その点は飯田橋内科歯科ではどのように対処しているのでしょうか?
大森
最終的には補綴の処置をするのですが、いきなり再補綴することはしません。頭がい骨が歪んでいた場合はすぐには治りませんので、擬似的な歯の役割としてマウスピースをつくり、ゆっくりとパズルのずれを直すように咬合を調整してからでないと、歯は治せないと思っています。
インタビュアー:
見える補綴部分だけを直してもダメなのですね?
大森
そうですね。かみ合わせは、実際に生活する中で筋肉が動いてバランスの取れる位置にくるんですね。それに合わせマウスピースの調整をします。また調整後も生活の中で筋肉が動きますのでさらに調整をします。この繰り返しで初めてバランスの良いところに近づいていきます。
インタビュアー:
患者さんによっては時間がかなりかかるのではないでしょうか。
大森
個人差はかなりありますね。ただ歪みといっても横にずれるようなものならまだいいのですが、回転するような歪みがかかっている人は難しいですね。
インタビュアー:
咬合で苦しんでいる患者さんの症状とはどういったものなのでしょうか?
麻生田
全身症状で特にこれがでるといったものはないですね。今は患者さんの知識量も増えていますので、自ら「私の腰痛はかみ合わせと関係がありますよね?」と言う方もいらっしゃいます。最近では、そこまで考えたうえで来院される方が増えてきました。まずはエビデンスをとって当院で治療できるものであれば、患者さんと話し合ったうえで症状に合った治療をしていきます。
土台を治さなければ屋根をつくれない
インタビュアー:
山田先生にお聞きしたのですが、咬合と骨盤の治療の順番はどちらが先なのでしょうか?
山田
基本は同時ですが、重点的には骨盤が先です。まずは土台をきちんと治すということです。
インタビュアー:
主な骨盤のバランス治療とはどういったことをやるのでしょうか。
山田
治療師が手技等で骨盤を補正する方法と、ゴムバンドを使い自分で運動をし、骨盤を若い時の状態に戻す方法。この2つがベルビックセラピー(骨盤療法)の基本です。再現性のあるレントゲンで確認をし、歪み、ねじれ、傾きがなくなれば歯科へと移ります。骨盤の治療が先と言いましたが、大森先生が診療でゆがみが気になると、私のところで患者さんの確認をし、問題がないようでしたら、また歯科へと戻るケースもあります。
インタビュアー:
治療師の方々にお聞きしたいのですが、画像診断でビフォー、アフターがわかるように、手技の際に触ってみた感触で違いはわかるものでしょうか。
寺田
患者さんの個人差にもよりますがわかりますよ。山田先生が画像で診断したものと私が実際に身体を触って診断するものとでは、筋肉の緊張によって多少誤差は出てくることはありますが。
インタビュアー:
なるほど、筋肉の緊張までは画像では判断できません。そこでゴムバンドの巻く強さや方向がポイントになってくるのですね。
寺田
そうですね。ねじれを戻す方向に巻きます。
インタビュアー:
歯科領域でいうとマウスピースの役割がゴムバンドになりますか?
山田
はい同じです。人間の骨盤は10代後半で1度完成するものなのですが、年とともに変化してきます。骨盤をどの時点でどこまで戻すのかは別として、「骨」の説明をするのが私の役目です。治療師は「筋肉」の説明をし、実際に施術を行います。
インタビュアー:
患者さんが飯田橋内科歯科に来る大きなモチベーションというのは、歯科と骨盤を診られる先生方と手技治療師がいて、カンファレンスしながら治療が進められるということですね。
山田
その通り、完璧な説明です。(笑)
インタビュアー:
咬合専門医の大森先生は以前から骨盤療法にも関心があったのでしょうか。また顎関節の治療で患者さんの身体の不調が咬合だけの原因ではないと思った時、診診連携ということを考えていたのでしょうか。
大森
私の恩師が整体の方と組んで治療をしていましたので、関心はありました。
専門医の集団だからこそできる治療
インタビュアー:
飯田橋内科歯科は全身からかみ合わせの総合診断にアプローチしています。その中で大森先生のような専門医を麻生田先生がディレクションしていますが、他に専門医の先生はいらっしゃいますか。
麻生田
インプラントの認定医、歯周病の専門医、矯正の専門医、麻酔の専門医ですね。従来の歯科では審美矯正などは、見える範囲で歯をきれいに並べてゴールとなってしまっていました。そのため何年かしてガタガタになるケースが多かったですね。つまり矯正医自体が咬合のことをわかっていなくて、咬合を考えない矯正治療をして前歯がきれいに並んだからといって、そこで終わりとなっていたのです。やはり専門医が連携しないと良い治療結果を得ることは難しいと思います。一つの部位が繋がって身体として機能しているわけですから、専門分野でバラバラに診て、それぞれの箇所を治したからといって解決するわけではありません。
インタビュアー:
咬合治療を行い、きちんと噛めるようになるまでには、どのくらいの期間を要するものなのでしょうか?
大森
個人差はありますが早い人で1年くらいですね。時間がかかる人は何年もかかるケースもあります。
インタビュアー:
歯周病のメンテナンスが必要なように、かみ合わせもメンテナンスが必要でしょうか。
大森
治療が終わってもかみ合わせの方は定期的調整は必要ですね。ゴムバンド運動は骨盤のメンテナンス骨盤のメンテナンスは必要でしょうか?
山田
17~18歳で出来上がった骨格は、年月が経つにつれ、変化し続けるので歪んでしまいます。私は骨盤療法を施術して24年経ちますが、ありがたいことに22年間通い続けている患者さんもいます。「何で来ているの?」と患者さんに尋ねると、「健康管理です。」と答える方もいます。つまりはメンテナンスなんですよね。私から勧めているわけではありませんが、痛み、しびれ等の症状がなく元気に暮らし、骨盤を若々しくすることに関して、患者さん自らが健康管理をする時代になったと、患者さんから教えられています(笑)。具体的には骨格、ベルビック療法のメンテナンスはどのような形で行っているのでしょうか。
寺田
当院が他の整体と違うのは、ゴムバンドの運動をやっていただくことでメンテナンスになることです。来院なさっていただき実際に診断することも大切ですが、ゴムバンド運動をすることで、一定の成果を維持していくことは可能です。
山田
今の話を聞いて、患者さんが自ら望むのでしたら、死ぬまで骨格や骨盤は変化しますので、メンテナンスはした方がいいと思いますね。
インタビュアー:
骨盤療法のメンテナンスはゴムバンド運動をすることなのですね。しかし、より積極的な健康増進を望まれる方は、手技治療師の施術も有効ということですね。
インタビュアー:
さて飯田橋内科歯科は都心部で約120坪の規模を有して、歯科医をはじめ医療従事者が約30名以上在席しています。総合的な歯科治療はもちろんのこと現代病といえる顎関節症に独自のアプローチをしてきて着々と成果を上げていますが、今後の展望を聞かせてください。
麻生田
不定愁訴の改善目的で一定の成果をあげてきたエビデンスをベースに、今後はより積極的に人間のパフォーマンスをあげることに取り組んでいきます。具体的にはアスリートの能力開発と維持です。まだスタートしたばかりですが、国内外のトップアスリートとそのコーチやトレーナーの方の協力をいただき、画像診断、筋力測定、血液検査などのデータを基に、アスリートが最大限能力を発揮できる顎の位置を継続的に維持できるアスリート専門の咬合外来を開設しました。むし歯の治療から歯周病治療、審美歯科、インプラント、入れ歯、そして顎関節症、さらにアスリート咬合外来まで行うのですから、都心で120坪のスペースと30人からなる医療従事者は必要不可欠です。さらに今後は、診診連携を進めて、入院施設はありませんが総合歯科病院を目指していきます。